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心療内科と精神科について

[2023.11.13]

「こころの不調」になったかたは、心療内科か精神科をかかげている医療機関への受診を考えると思います。

 

では心療内科と精神科のどちらに受診をするべきでしょうか。そもそも両者の違いは何なのでしょうか。

 

患者さんからは「病気の状態がそこまで重くない状態で受診する科が心療内科で、そうでない患者さんは精神科でかかるものだと思っていた」という話をたびたび聞きます。

この認識は間違いとは言い切れないのですが説明が必要なところがあります。医療を提供する側の実態と事情についてと、個人的に思うところを本日は書いてみます。

 

心療内科と精神科の違い

元々は心療内科と精神科は「病気の重さ」でわかれるわけではなく、病気の内容でどちらの科の対象かがわかれます。

 

心療内科はそもそもは内科の一つであり、「ストレスが原因で生じた身体の不調」「身体管理を必要とする、こころと関連する疾患」を治療する科です。具体的にはストレスによる胃潰瘍や喘息、過敏性腸症候群、摂食障害、当院ホームページでも記載している自律神経失調症などです。これらの疾患に対して、内科的な評価をおこなったうえでストレスなど心理的な影響について考慮にいれた診療をしています。ただし業務の範囲は医療機関によって異なり、幅広くうつ病や認知症をあつかっている心療内科もあります。

 

精神科は、精神つまり「こころ」の不調について診療する科です。精神科は1950年代~60年代に向精神薬(「こころの不調」へ有効な薬)が開発されるまでは入院が治療の中心であり重症のかたを主に診療していましたが、現代では重症だけでなく幅広い状態のかたを対象にしています。具体的には現代ではうつ病、適応障害、躁うつ病、統合失調症、パニック障害、不安神経症、不眠症、社会不安障害、強迫性障害、認知症、発達障害などの診療をしています。身体面についても考慮しますが、精神的・心理的な面を中心とした診療をおこなっています。自律神経失調症について精神科で診察する際は、主に心理面や精神面からの評価・治療をおこなっています。

 

一つ具体例を示しましょう。例えば「ストレスがかかった状態で、食欲がなく頭痛もする」という患者さんの場合、どちらの科にまずかかるのがすすめられるでしょうか。

ストレスへの対処をのぞむなら精神科を専門とする医療機関、急に身体の状態が悪くなるなどで身体の精査をおこなっていくなら心療内科を専門とする医療機関への受診がすすめられます。優先されるのが身体のことであれば心療内科、精神的なことであれば精神科を受診していくのが無難でしょう。

 

心療内科と精神科の実状・実態

医師の数は心療内科と精神科ではどちらが多いのでしょうか。日本心身医学会・日本心療内科学会が認定する心療内科専門医は、全国で287名です(令和5年11月12日現在、日本心身医学会ホームページ参照)。それに対して精神科専門医は12000名ほどであり、比較すると心療内科専門医はかなり少ないのです。

 

心療内科専門医が少ないわりに、心療内科を標榜している医療機関が多くみられますが、どうしてでしょうか。

 

医療機関ごとの実態としては、大きく三つにわかれます。

  • 内科のひとつの分野である「心療内科」そのものを専門としている
  • 元々別の内科を専門とする医師がかかげている
  • 元々精神科を専門としている医師がかかげている

 

このうちで①は心療内科専門医の数からして最も少なく、ほとんどは②か③になります。

 

湘南こころのクリニックが所属する平塚市と近隣の茅ヶ崎市、大磯町、二宮町の医師会に所属する医療機関では、「精神科を標榜する場合は心療内科も必ず標榜している」「内科を専門とする医療機関は心療内科を標榜していても精神科は標榜していない」ようです(医師会ホームページ参照)。

つまり「精神科と標榜している場合は基本的に精神科を専門としている」ことがいえます。「心療内科を標榜している場合には、精神科も標榜していればもともと精神科を専門としており、精神科を標榜していなければ内科を専門としている」こともいえます。

 

「心療内科」とみただけでは、内科と精神科のどちらが専門なのか、わかりにくくなっています。この事態は、「精神科を専門とする医療機関が心療内科も標榜している(湘南こころのクリニックもふくまれます)」ためであり、湘南地区のみならず全国的にみられる傾向です。

 

なぜこのようなわかりにくい事態になっているかというと、やはり患者さん側に「病気が重い人が精神科で、そうでなければ心療内科にかかるもの」という認識が多くあるためでしょう。精神科を専門とする医療機関側としては、患者さんのニーズを汲み取って「重症だけでなく幅広い状態のかたを診察の対象としている」と知ってほしいがために心療内科を標榜しているのが主な理由と思われます。実際に精神科を専門とする医師のほとんどは、入院と外来の両方で重症だけでなく幅広い状態のかたを診察して研鑽を積んでいます。

 

「わかりにくいから、精神科を専門とする医療機関は心療内科を標榜するのを禁止してはどうか」という意見を目にすることがあります。しかしながら十分に心療内科と精神科の違いが認識されていないなかでもし実行すると、本来精神科にかからないと治療が難しい患者さんが「自分は重症でない」といって内科を専門としている心療内科を受診することが今よりも増え、ますます混乱が生じてしまうことでしょう。

 

理想としては、「心療内科と精神科の違いについて十分に普及して、誰しもが科の違いを知っている」状況になったうえで、「混乱をさけるために精神科を専門とする場合は心療内科を標榜しない」決まりを作り、さらに「現在数が少ない心療内科を専門とする医師が増えて、患者さんの受診がしやすくなる」ようになればいいのですが、実現はなかなか難しいでしょう。

 

当面は現状にあわせて、精神科を専門とする医療機関が「心療内科」も標榜するのは変らないことと思います。

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