お薬がたくさん余っていたら、診察のときに医師に教えてください
みなさん、「残薬」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
残薬とは、飲み忘れだったり受診の間隔が処方日数より短かったために、飲まずに手元に残っている薬のことをいいます。残薬は、医療における問題のひとつとして近年ではよく話題になることです。
今回は残薬をテーマに、ブログ記事を書かせていただきます。
湘南こころのクリニック以外に受診された際にも役立つことですので、せっかくですのでこのページをひらいたかたは最後までお読みいただければ幸いです。
残薬がなぜよくないかですが、大きくわけると2つの理由があります。
ひとつめですが、「飲んでいない薬剤にかかるお金は、無駄である」ということです。薬剤は当然ただではなく、皆さまのおさめた保険料、税金、それに窓口で支払う自己負担分のお金がかかっています。日本全国で、1000億円以上のお金が残薬にかかっているという試算もあります(参考:第5回 医療費削減のために!大切なお薬のお話|健康保険の基礎知識|健康保険を知る・学ぶ|けんぽれん[健康保険組合連合会] (kenporen.com))。医師の立場としては、なるたけ必要な医療にお金は使っていくべきであり、節約できるものは節約すべきであり過剰な残薬は減らすべきであると考えています。
ふたつめですが、少々の飲み忘れがつみ重なってではなく処方のとおりでない内服をして多量の残薬がある場合は「患者さん自身の治療にとって、有害となりうる」ことです。一般的に医師は、基本的に患者さんは処方された薬剤の用法・用量を基本的には守って内服していると認識しています。処方された薬剤をはじめから飲んでいなかったり、医師にはだまってご自分の判断での調節をしていても、医師としては「処方されたとおりにだいたい内服をしている」と考え、実際の内服状況とずれが生じてしまいます。そのために、医師のおこなう薬剤の調節が、治療として本来すべき調節とずれたものになってしまうことがおこりえます。なるたけ正確な実際に内服している薬剤を知ったうえでないと、適切な治療は難しくなってしまいます。
残薬について、患者さんからは「医師に怒られると思ったから診察では言いにくかった」という話しをききます。残薬がたまりにたまり、リュックサックいっぱいになるほどに薬がたまってしまったという話を聞くこともあります。
はっきりと申し上げますと、医師の立場としては患者さんはだいたいの内服はしていてもある程度飲み忘れはでてしまうものであると認識しています。私自身、自分が病気になった際に処方をうけた薬剤を飲み忘れてしまうことを経験しています。「処方されたとおりに薬を確実に飲んでいくのは、大変なことだ」という認識がない医師は現代ではほぼいないと思われますし、残薬があるからといって患者さんにおこることはありません。残薬の状況を知ることで、例えば服用しにくい時間帯の薬剤を別の時間帯の内服に変更したり、処方薬によっては内服回数が少なくすむ薬剤に変更することも可能になります。処方されていても内服していなかったり自己判断での調節をしている場合には、残薬の話をすることで薬剤の処方を見直しより適切な治療につながることも多くあります。
残薬での処方調節をする際のお願いですが、「どのお薬が」「だいたい何錠残っているか」を事前にメモをして、診察時に教えていただくようにお願いします。残薬が多くて数えられないという場合は、薬の実物を診察でもってきていただいても数える時間を診察で確保するのは難しいため、かかりつけの薬局でまずご相談いただくことをおすすめします。
「どのお薬」かについては、「白くて細長い錠剤」や「アメルってやつ」などとお伝えいただいても医師はどの錠剤か判断できず、必ず薬剤名をお伝えいただくようにお願いします。なぜならば、ジェネリックも多くあるなかで薬剤の形状からどの薬剤か判断するのは困難なためです。なお「アメル」は共和薬品株式会社という製薬会社が作っている薬につく名前であり、どの薬剤かはこれだけではまったくわかりません。「NP」「トーワ」「サワイ」などもそれぞれ製造している製薬会社ごとにつく名前であり、薬剤がどれかをあらわしてはいません。
「だいたい何錠残っているか」については、「〇シート残っている」とお伝えいただいても薬剤によって1シートあたりの錠数が異なり(薬剤によって、6~20錠程度と幅があります)、正確な数字がまったくわかりません。おおざっぱにでも錠数がわかれば、処方の調節をすることは可能です。
なお「残薬ゼロ」、つまり受診をする日には残っている薬がまったくない状態にすることは、過量服薬をする恐れがあるかた以外ではあまりすすめません。なぜならば、薬剤をもつ手がすべって洗面所やごみ箱に薬が転がってしまっただけ(けっこうあることです)で薬はすぐに足りなくなってしまうためです。また、患者さん側のご都合やご体調がよくなかったり、台風・大雪などで来院できなくなると、受診までに飲む薬がなくなってしまいます。
服用していた薬剤がまったくなくなるのは、薬を急にやめることと同じであり、身体のバランスが崩れて調子が悪くなってしまうこともおこりえます。内服は理由なく急にやめるべきでなく、基本的には継続していくべきです。
ある程度長い経過で処方薬もほぼ決まっているかたは、少なくとも一週間分くらいの薬は別に持っていくことをすすめます。このときの薬は残ってしまった「残薬」ではなく予備のためにとっておいた「予備薬」というよびかたをするといいでしょう。
長くなったのでまとめましょう。
より適切な医療をおこなうためには患者さんの協力もかかせません。湘南こころのクリニックでも他の医療機関へ受診される際でも本ブログの題名のとおり、「お薬がたくさん余っていたら、診察のときに医師に教えてください」。
くりかえしになりますが、その際にはお薬の名前と、おおまかな錠数も教えていただけるようお願いいたします。