「うつは心の風邪」という言葉について
「うつは心の風邪」という言葉を聞いたことがあるかたは多いのではないでしょうか。
「誰でもかかる」「時間がたてば治る」「まずはほうっておいてもいい」という意味で風邪という言葉が使われているようです。「ストレスをきっかけに数日~1週間程度、生活に大きな支障がでない程度に落ち込む」ことを「うつ」とするならば、この言葉はおおむね正しいともいえます。
では「なかなかうつが治らない」ときにいつまでも「風邪だからほっておけばいい」と何もしないのがいいのでしょうか。そもそも身体疾患としての風邪であっても改善しない場合は放置すべきではないですし、「治らないうつ」については「うつ病」という治療を要する病気と考えなければなりません。
専門的な話になりますが、「うつ」と「うつ病」は区別する必要があります。落ち込む状態である「うつ」が、2週間以上続き生活への支障がでていると「うつ病」の診断になります。詳しくは、ホームページの「うつ病について」をご覧ください。
「うつは心の風邪」という言葉は、うつ病に対してありふれた病気というイメージを作り、精神的不調や精神疾患への偏見を減らし、受診しやすくしたことは大きな意義があったと思います。しかし近年では偏見はだいぶ減っていますし、「うつは心の風邪だからほうっておくものだと思っていた」といってうつ病であるにもかかわらず、長い間治療をせずに大変苦しい時間を過ごされるかたをたびたびみています。風邪という言葉からくる軽いイメージが、むしろ精神科・心療内科への受診を遠ざけているようにも感じます。
ただし、誤解につながりうるとはいえ、歴史的意義を考えると「うつは心の風邪」という言葉は敬意を払われるべきで、残したい言葉でもあります。
「うつ病」は安静だけではなく専門家による治療を要するということから「肺炎」にたとえることができます。「うつは心の風邪、うつ病は心の肺炎」というフレーズが普及すると、一般の方々に適切なイメージを持つことにつながるのではないか、と常々考えています。
令和5年5月21日