統合失調症について
この病気について調べようとしても、専門的すぎたり、簡略化しすぎたりして、なかなか調べにくいことと思います。このページでは、病気をもつご本人やご家族が知っておいたほうがいいと思う内容について、一臨床医の立場から記載させていただきます。
どんな病気でしょうか?
統合失調症という病気についてさまざまな説明がありますが、「脳内のバランスがくずれ働きをまとめることが難しくなる」ためにさまざまな症状をきたす病気という説明が個人的にはしっくりきます。
幻聴や妄想はその形式によっては統合失調症に特徴的な症状ではありますが、必ずともなうものではありません。統合失調症は精神科・心療内科であつかうほとんどの症状がおこりうる病気であり、でてくる症状について個人差がとても大きいのです。そのため診断と治療について、特に精神科医としての勤務経験を重ねていないと難しい病気です。
病気になったご本人にとって、他の病気と比較したときに「自分が不調である」と感じにくい病気でもあります。そのため、家族や周囲のかたの強いうながしや同伴によりはじめて受診にいたることも多く、ときに入院をきっかけに医療につながることもある病気です。
ここだけはこの病気について覚えていただきたい、大切にしていただきたいと臨床医の立場から考えていることを記載します。
「病名で将来がきまるわけではない」のですが「なるたけ早めに精神科を専門とする医療機関へ受診をして治療を継続したほうがいい」ですし、治療について「薬剤については合う薬剤をしっかりと継続して使用することが大事」な病気であります。
頻度について
報告によって差がありますが、全人口の約1%のかたが統合失調症になるといわれています。年齢としては、10代半ば以降から30代に発症することが多いのですが、女性では40代に発症するかたも少なからずいます。
遺伝するのでしょうか
「病気のなりやすさについて遺伝するところはあるが、遺伝が病気を決定するわけではない」といえます。両親のどちらかが統合失調症であった場合にこどもが統合失調症になる確率は約10%といわれています。一卵性双生児といって遺伝子が同じきょうだいの場合に、ひとりが統合失調症でもうひとりも統合失調症である確率は約50%といわれています。まったく血縁に統合失調症のかたがいない患者さんも多くみられます。
生まれ持って病気になるかが決定するのではなく、後天的な要因で病気になるかが決まるとはいわれていますが、具体的な要因については研究段階にあり未知のところが大きいです。少なくとも、育て方によって病気になるかが決まるわけではないことをご本人・ご家族ともに覚えておいていただきたいです。
症状について
統合失調症ではさまざまな症状をきたします。症状について陽性症状、陰性症状、認知機能障害に分類することが一般的です。
陽性症状
陽性症状は幻覚や妄想、思考形式の障害など、通常では認められない症状が出現したものです。
幻覚では特に統合失調症では「幻聴」といってないはずの音が聞こえることが多くみられます。幻聴のなかでも、「本人を批判したり悪口をいう」「頭の中で2人以上の人物が本人のことを話題にして話し合う」「自分の考えたことが声になってきこえる」などの幻聴は統合失調症に特徴的です。人の声ではなく「物音が聞こえる」幻聴は精神疾患ではないかたででることも多くあり、これだけで精神疾患と診断をすることはできません。
妄想は、内容が不合理であるにかかわらずまわりからは訂正ができない思い込みのことをいいます。統合失調症以外の精神科・心療内科領域の疾患で妄想がでてくることもあります。統合失調症では、嫌がらせや監視をされているという被害妄想、普通に考えればとるに足らない他者の言動・様子・状況を自分にとって特別な意味があると考える関係妄想がよくみられます。
思考形式の障害では、思考や会話のまとまりが悪くなる連合弛緩、まとまりの悪さが強くなる滅裂がみられます。
陰性症状
陰性症状は、通常あるべき機能や状態がなくなったり減少したものです。具体的には下記のような症状があります。
感情の平板化(感情鈍麻)
感情のゆれうごきが小さくなることをいいます。
思考の貧困
会話量が減ったり、会話内容が乏しくなることがみられます。
無為・自閉
本人の自然な意思がみえずぼんやりとすごしたり、とじこもってすごすことをいいます。
認知機能障害
統合失調症では情報処理能力の低下、注意集中の困難、学力の低下などがみられることがあります。そのため、仕事や学業、家事などさまざまな場面で影響がでることがあります。
これまでにであげたことが統合失調症ででてくる症状のすべてではなく、抑うつ症状、強迫症状、躁症状、不安緊張、不眠など他の精神疾患でもでてくる症状を伴うこともあります。
統合失調症はさまざまな症状があるのですが、「これがないと統合失調症とはいわない」という診断に必須の症状はありません。
診断について
陽性症状は統合失調症に特徴的でありますが必ずともなうものではなく、診断については現在の状態や病状の経過を参考にしながら慎重におこないます。はじめはうつ症状や不安のために通院していたかたが、通院をしているあいだに統合失調症の症状が出現してくることもあり必要な際には診断の見直しもおこないます。
頻度として多くはないのですが、ウイルスや自己抗体による脳炎により統合失調症に似た症状がでてくることもあります。それまで元気だったかたが短い期間で急に状態が悪くなっていたり、意識障害、発熱、けいれん、頭痛などを伴う場合には特に脳炎ではないかという確認は必要です。その場合精神科の医療機関よりも神経内科のある総合病院で診察をまずうけていくことがすすめられます。
治療について
統合失調症の治療には、抗精神病薬という分類の薬剤が中心になります。ごく一部の患者さんをのぞいて、抗精神病薬なくして治療は困難であるというのが現在の一般的な見解です。抗精神病薬以外に、睡眠導入剤や気分安定薬を用いることもあります。
さまざまな抗精神病薬があるのですがそれぞれの患者さんにどの薬剤が確実に有効であるかを事前に知ることはできず、たくさんの人に対して使用したデータを参考にして薬剤を一つずつ使用して効果をはかっていくしかありません。
病気がよくなったからといっても、抗精神病薬を中止にすると一年以内に約8割のかたに病気が再発したという報告もあります。有効な薬剤がみつかったら、糖尿病や高血圧などの内科疾患と同じく、基本的に継続していくことがすすめられます。
当院では現在あつかっていませんが、抗精神病薬には内服以外に4週間に1回など定期的に筋肉注射で薬剤を投与する方法もあります。通院を確実にすれば飲み忘れはなく薬の効果が持続するというメリットがあります。ただし内服に比べて使用できる薬剤の種類が少ないこと、内服で効果がでている薬剤でないと効果は期待できないこと、細かな用量調節はできないことなどのデメリットがあります。
状態の急な悪化がある際や緊張病といわれる状態で入院が必要になった際には電気通電療法という治療が選択にあがることもあります。電気通電療法は有効ではあるのですがそれだけで長期に状態安定を維持するのは難しく、抗精神病薬も併用していくのが一般的です。
薬剤以外の治療として、当院では併設していませんがレクリエーションや生活技能訓練を通じて対人関係能力や社会適応の改善を目指す場所であるデイケアへの通所や、従来は作業所とよばれていた場所である就労継続支援事業所や就労移行支援事業所への通所をおこなっていくことも状態によってすすめられます。
病気の経過について
統合失調症の経過は、患者さんそれぞれで大きく異なります。でてくる症状の個人差も大きいのですが、その症状がどれくらい生活に影響を与えるかの個人差もとても大きい病気です。生活全般への援助が必要で長期の入院が必要なかた、生活の一部に影響がでてときに周囲のかたの援助は要するもののおおむね独立した生活をおくれるかた、病気としては統合失調症ではあるけれど治療を継続し状態悪化も生活への影響もほぼないかたなどさまざまです。
「病名で将来が決まるわけではない」のですが、なるたけ病状の経過をよくするためには継続した通院と治療が重要であることは覚えておいていただきたいことです。
通院先について
統合失調症の治療のため、いずれかの医療機関への継続した通院が必要になります。通院先についてですが、どうしても診療所・クリニックではなく、入院が可能な医療機関への通院がすすめられるかたが他の病気に比べて多くいます。
特に周囲がすすめても精神科・心療内科への受診にいたらず入院での治療の検討を要するかた、病状悪化時の入院をくりかえしているかた、悪化した際の症状が激しいかたについては、診療所・クリニックではなく入院施設のある医療機関への通院をすすめます。
当院は小規模な精神科・心療内科のクリニックであり、病状によっては当院での対応が難しいと判断される場合もあることはご了承ください。